リファラル採用の報酬相場とは?失敗しない制度設計と法的注意点を解説!


採用コストの削減・カルチャーフィットした人材獲得の切り札として、リファラル採用に注目が集まっています。
その成功の鍵を握るのが、社員の協力意欲を引き出す「報酬制度」です。しかし、「報酬額の相場は?」「法律的に問題はないの?」「どんな制度にすれば社員は協力してくれるのだろう?」といった疑問や不安で、具体的な制度設計に踏み切れない人事担当者様も多いのではないでしょうか。

この記事では、リファラル採用の報酬相場の決め方や、法的リスクを回避しながら自社に最適な報酬制度を作るポイントについて解説します。リファラル採用を正しく運用する一助になれば幸いです。

リファラル採用の報酬制度とは?導入する3つの目的

リファラル採用における報酬(インセンティブ)制度とは、自社に知人や友人を紹介し、採用に貢献してくれた社員に対して、会社から何らかの報奨を与える仕組みのことです。この制度は単なる「紹介料」ではなく、企業の採用活動を円滑にし、組織を強くするための重要な目的を持っています。

1. 社員への感謝をかたちにする

まず最も大切な目的は、採用に協力してくれた社員への感謝を具体的なかたちで示すことです。社員は、通常業務に加えて、会社の未来を想い、時間と労力をかけて知人・友人に声をかけてくれます。その貢献に対して、会社が「ありがとう」という気持ちを報酬という分かりやすいかたちで伝えることで、社員のエンゲージメントや会社への信頼感を高める効果が期待できます。

2. 採用協力へのモチベーションを高める

報酬制度は、社員がリファラル採用へ協力する直接的な動機付けになります。「制度はあるけれど、誰も協力してくれない」という課題は、多くの場合、協力することのメリットが社員に感じられていないことが原因です。魅力的なインセンティブを用意することで、「少し周りに声をかけてみようか」という行動を後押しし、リファラル採用を活性化させるきっかけを生み出します。

3. 全社で採用に取り組む文化を醸成する

リファラル採用の報酬制度を適切に運用することは、「採用は人事だけの仕事ではない」というメッセージを全社に発信することに繋がります。社員一人ひとりが自社の採用に当事者意識を持ち、協力し合う文化が醸成されるのです。優れた人材が優れた人材を呼ぶ好循環が生まれれば、企業の持続的な成長を支える強固な基盤となるでしょう。

【最重要】リファラル採用の報酬に関する法律と注意点

報酬制度を設計する上で、担当者様が最も懸念されるのが法律に関する問題でしょう。特に「職業安定法」に抵触しないかという点は、必ず押さえておかなければならない最重要ポイントです。ここで正しい知識を身につけ、安心して制度設計を進めましょう。

職業安定法に違反するケースとは?

職業安定法第40条では、原則として、労働者の募集を行う者がその募集に応じて労働者になろうとする者から報酬を受け取ること、また、報酬を与えることを禁止しています。つまり、許可なく職業紹介を行い、報酬を得ることは法律で禁じられているのです。もし、社員による人材紹介が「事業」として行われていると見なされ、その対価として報酬が支払われていると判断された場合、違法となる可能性があります。

合法的に報酬を支払うための3つの条件

社員への報酬支払いが「適法」と認められるためには、一般的に以下の3つの条件を満たす必要があるとされています。このポイントを必ず押さえ、制度を設計してください。

  1. 紹介者が自社の社員であること
    報酬を支払う対象は、あくまで自社で雇用している社員に限定されます。外部の個人や法人に継続的に人材紹介を依頼し、報酬を支払う場合は、職業紹介事業の許可が必要です。
  2. 紹介を主業務としていないこと
    社員が本来の業務の傍ら、自主的に行う紹介活動であることが前提です。人事部以外の社員に、人材紹介を主業務として割り当て、成果に応じて報酬を支払うといった形は認められません。
  3. 報酬が社会通念上、相当な額であること
    賃金などと比較して高額すぎず、あくまで謝礼の範囲と見なされる金額であることが重要です。あまりに高額な報酬は、紹介が事業目的であると見なされるリスクを高めます。

リファラル採用の報酬相場はいくら?職種別に解説

法的な問題をクリアしたら、次に気になるのは「報酬額の相場」です。金額が低すぎれば協力者は増えず、高すぎればコストを圧迫し、法的リスクも高まります。ここでは、一般的な報酬相場を職種別に解説しますので、自社の制度設計の参考にしてください。

正社員の報酬相場は5万円〜30万円

正社員を紹介した場合の報酬相場は、一般的に5万円から30万円の範囲で設定されることが多いです。企業の規模や採用ポジションの重要度によって変動しますが、多くの企業が10万円前後を一つの基準としています。アルバイトや契約社員の場合は、1万円から5万円程度が相場となります。まずは自社の採用コストと比較し、無理のない範囲で検討を始めると良いでしょう。

新卒採用のコスト全体については、こちらの記事『新卒採用の平均単価とコスト内訳を徹底解説!最適化のポイントとは?』で解説しておりますので、合わせてご覧くださいませ。

【職種別】エンジニア・専門職の報酬相場

採用競争が激しく、獲得が難しいエンジニアやデータサイエンティスト、デザイナーといった専門職については、報酬額が高めに設定される傾向があります。具体的には、30万円から、場合によっては50万円以上の報酬を設定する企業も存在します。これは、人材エージェント経由で採用した場合のコスト(年収の30~35%)と比較して、リファラル採用の方がコストを抑えられるため、その削減分を社員に還元するという考え方に基づいています。

【職種別】営業・企画職などの報酬相場

営業職やマーケティング職、企画職、コーポレート部門などのビジネス職については、5万円から20万円程度の範囲で設定されるのが一般的です。専門職に比べると相場は若干下がりますが、リーダーやマネージャークラスの採用であれば、30万円以上の報酬を設定するケースもあります。ポジションの難易度や緊急性に応じて、柔軟に金額を設定することが重要です。

報酬だけじゃない!社員が喜ぶ非金銭的インセンティブ5選

「お金だけが目的の紹介になってほしくない」「社員の多様な価値観に応えたい」と考えるなら、金銭以外の「非金銭的インセンティブ」を組み合わせるのが効果的です。ここでは、社員が本当に喜ぶ、魅力的なインセンティブのアイデアを5つご紹介します。

1. 特別休暇の付与

リフレッシュや自己研鑽のために使える特別休暇(例:リファラル休暇3日間など)を付与する方法です。特にワークライフバランスを重視する社員にとっては、金銭的な報酬以上に魅力的に映ることがあります。「この休暇を使って旅行に行こう」といったポジティブな動機付けになり、コストを抑えつつ社員満足度を高めることができる有効な手段です。

2. 社内表彰・人事評価への反映

全社総会などの場で、採用に貢献した社員を特別に表彰する方法です。経営層から直接感謝を伝えられることで、本人の名誉や承認欲求が満たされます。また、人事評価の項目に「採用への貢献度」を加えることも有効です。これにより、会社がリファラル採用を重要視しているという明確なメッセージとなり、社員のキャリアアップにも繋がるため、継続的な協力が期待できます。

3. 高級レストランでの食事会

紹介者と、可能であればそのチームメンバーを招待し、普段は行けないような高級レストランでの食事会を開催するインセンティブです。これは、個人の貢献をチーム全体で祝福する文化を育むのに役立ちます。「次は自分たちのチームがあの食事会に行きたい」という、ゲーム感覚のポジティブな競争心を生み出す効果も期待できるでしょう。

4. 希望するガジェットや備品のプレゼント

特にエンジニアやクリエイター職の社員に喜ばれるのが、最新のPCやモニター、高級キーボード、オフィスチェアといった、業務環境をアップグレードする備品をプレゼントする方法です。本人の希望を聞いて購入することで、業務効率の向上にも直接繋がり、会社と社員の双方にとってメリットの大きいインセンティブとなります。

5. 外部研修・セミナーへの参加権利

社員の成長意欲に応えるインセンティブとして、本人が希望する外部研修やセミナー、カンファレンスへの参加費用を会社が負担する方法があります。個人のスキルアップへの投資は、会社全体の資産となります。成長機会を重視する社員にとっては、金銭よりも価値のある報酬となり得るでしょう。

失敗しない!リファラル報酬制度を設計する5つのステップ

ここからは、実際に自社でリファラル採用の報酬制度を設計するための具体的な手順を5つのステップで解説します。この通りに進めれば、法的リスクを回避し、自社に合った実用的な制度を構築することができます。

STEP1. 制度の目的と対象範囲を明確にする

まず、「何のためにこの制度を導入するのか」という目的を明確にします。採用コストの削減、エンゲージメントの向上、採用スピードのアップなど、目的によってインセンティブの内容も変わってきます。そして次に、報酬を支払う対象範囲を決めます。全正社員を対象とするのが一般的ですが、役員や人事担当者を除外する、契約社員やアルバイトも対象に含める、といったルールを具体的に定めます。

STEP2. 報酬の種類と金額・内容を決定する

これまでの解説を参考に、報酬を金銭にするのか、非金銭にするのか、あるいは組み合わせるのかを決定します。金額や内容については、前述の相場や採用ポジションの難易度、採用によって削減できるコストなどを総合的に勘案して決めましょう。複数の選択肢を用意し、社員が好きなものを選べるようにするのも、満足度を高める良い方法です。

STEP3. 報酬の支払い条件とタイミングを決める

「いつ、何をもって支払うか」という条件とタイミングは、制度の公平性を保つ上で非常に重要です。一般的なタイミングとしては、「被紹介者の入社から3ヶ月~6ヶ月経過後」が最も多いでしょう。これは、早期離職のリスクを考慮し、定着を確認してから支払うという考え方です。これにより、「とりあえず入社させれば良い」という安易な紹介を防ぎ、紹介の質を高める効果が期待できます。

STEP4. 社内規程を作成し明文化する

決定したルールは、必ず「リファラル採用規程」として文書にまとめ、明文化します。口頭での説明だけでは、後々のトラブルの原因になりかねません。規程には、目的、対象者、対象となるポジション、報酬内容、支払い条件、申請フロー、禁止事項などを具体的に記載しましょう。法務部門や顧問弁護士に内容を確認してもらうと、より安心です。

STEP5. 全社へ向けて丁寧に周知・PRする

最後に、全社へ向けて丁寧に周知しましょう。素晴らしい制度を作っても、社員に知られていなければ意味がないためです。社内チャットやメール、全社朝礼など、あらゆる手段を使って制度の内容を丁寧に周知しましょう。なぜこの制度を始めたのかという背景や想いを伝えることで、社員の共感を得やすくなります。

また、一度だけでなく、募集中のポジションと合わせて定期的にリマインドすることも、制度を形骸化させないために重要です。

報酬制度を形骸化させない!運用を成功させる3つのコツ

制度は作って終わりではありません。継続的にリファラル採用を成功させるためには、日々の運用における細やかな配慮が不可欠です。ここでは、制度を形骸化させないための3つの重要なコツをご紹介します。

1. 紹介者への感謝と進捗共有を徹底する

紹介してくれた社員に対して、まずはすぐに感謝を伝えましょう。そして、その後の選考プロセスについて、こまめに進捗を共有することが極めて重要です。「紹介したのに、その後どうなったか全く連絡がない」という状況は、社員のモチベーションを削ぐ原因となります。結果がどうであれ、丁寧なコミュニケーションを最後まで心掛けてください。

2. 不採用時の丁寧なフォローを忘れない

紹介してもらった候補者が、残念ながら不採用となるケースもあります。この時のフォローは慎重に行わなければなりません。なぜ不採用になったのか、プライバシーに配慮しつつも、紹介者が納得できる範囲で理由を説明しましょう。同時に、貴重な人脈を紹介してくれたことへの感謝を改めて伝え、「今回の結果で気まずくならず、ぜひまた良い人がいたら紹介してほしい」というメッセージを明確に伝えることが、次の協力へと繋がります。

3. 定期的に制度の効果測定と見直しを行う

一度決めた制度が、永遠に最適とは限りません。市場環境や会社のフェーズによって、採用の課題も変化します。「紹介数は増えているか」「採用決定率はどうか」「社員の満足度は高いか」といった指標を定期的に測定し、制度の効果を分析しましょう。アンケートなどで社員の意見を聞き、必要であれば報酬額や内容、ルールを柔軟に見直していく姿勢が、制度を長く活用していくための秘訣です。

まとめ

リファラル採用における報酬制度は、社員の協力意欲を引き出し、採用を活性化させるための非常に有効な手段です。しかし、報酬制度はあくまで「きっかけ」に過ぎません。社員が心から「この会社を大切な友人に紹介したい」と思えるような、魅力的なビジョン、働きがいのある環境、良好な人間関係があってこそ、リファラル採用は本当の意味で機能します。

本記事を参考に、法的注意点を考慮した報酬制度を設定しながら、自社の魅力を高めていく取り組みにも力を入れていきましょう。