
「部下とのキャリア面談が、ただの業務確認や雑談で終わってしまう…」多くの人事担当者様や管理職の方が、そうした悩みを抱えています。本来、キャリア面談は部下の成長を促し、組織の活力を高める絶好の機会です。しかし、効果的な質問や進め方が分からないままでは、その価値を十分に引き出すことはできません。
この記事では、明日から使える具体的な質問リストから、部下の本音と成長を引き出す面談の進め方、そして信頼を損なうNG例まで、キャリア面談の全てを解説していきます。
キャリア面談の目的と評価面談との違いとは?
まずはキャリア面談の目的を正しく理解し、他の面談との違いを明確にしておきましょう。
信頼関係の構築とエンゲージメント向上
キャリア面談を通じて上司が部下一人ひとりのキャリアに真摯に向き合う姿勢を示すことで、相互の信頼関係が深まります。加えて、自身のキャリアを会社が応援してくれていると感じることは、エンゲージメント向上と離職防止にも直結します。
キャリアプランの明確化と支援
対話を通じて、部下自身がキャリアについて内省し、将来のありたい姿や目標を明確にするのを助けます。その上で、目標達成のために必要なスキルや経験、挑戦すべき業務などを共に考え、具体的な成長プランを描きます。
能力開発と組織の活性化
社員一人ひとりの強みや潜在能力、挑戦したいことを把握し、適切な業務や役割、研修機会を提供することで、個人の能力を最大限に引き出します。個人の成長は、結果として組織全体の活性化と生産性向上に繋がります。
混同しがちな「1on1」「評価面談」との違い
キャリア面談は、他の面談と目的や時間軸が異なります。「評価面談」が過去の実績や成果を評価・フィードバックするのが主目的であるのに対し、「キャリア面談」は未来志向で、中長期的なキャリア形成を支援する対話の場です。
また、「1on1ミーティング」は、より頻度高く(週1回~月1回)、業務上の課題解決や短期的な目標達成をサポートする側面が強いですが、キャリア面談はその中で特に「キャリア」というテーマに特化した、より深い対話と位置づけられます。
【保存版】キャリア面談で今すぐ使える質問リスト50選
ここからは、実際のキャリア面談で使える具体的な質問を、4つのカテゴリーに分けてご紹介します。これらの質問を組み合わせることで、自然な流れで対話を深め、部下の内面を引き出すことができます。ぜひ、面談の際の参考にしてください。
1. 信頼関係を築くアイスブレイクのための質問
面談の冒頭は、相手の緊張をほぐし、話しやすい雰囲気を作ることが重要です。仕事から少し離れた、ポジティブな話題から始めましょう。
- 最近、何か良いことはありましたか?
- 週末はどのようにリフレッシュされていますか?
- 最近ハマっていることや、趣味はありますか?
- 仕事の中で、最近楽しかった瞬間はどんな時でしたか?
- (季節に合わせて)連休の予定は何か考えていますか?
2. 過去の経験から学びを引き出すための質問
これまでの経験を振り返ってもらうことで、本人の価値観や強み、学びのパターンが見えてきます。成功体験・失敗体験の両方から内省を促しましょう。
- これまでのキャリアで、最もやりがいを感じた仕事は何ですか?それはなぜですか?
- 逆に、最も大変だった、困難だった仕事は何ですか?
- その困難を、どのようにして乗り越えましたか?
- その経験から学んだことは何ですか?
- 入社してから、一番成長したと感じる点はどこですか?
- 過去の自分にアドバイスするとしたら、どんな言葉をかけますか?
- どんな上司や同僚から、良い影響を受けましたか?
- これまでで、自分の強みが最も活かせたと感じたのはどんな場面でしたか?
3. 現在の状況と想いを深掘りするための質問
現在の業務に対する想いや課題、モチベーションの源泉を探ります。本人が何に価値を置き、どんな状態で働きたいのかを理解することが目的です。
- 今の仕事の面白いところ、やりがいを感じる部分はどこですか?
- 逆に、今の仕事で課題に感じていること、改善したいことはありますか?
- 現在の業務を通じて、どんなスキルが身についていると感じますか?
- 今後、伸ばしていきたいスキルや知識は何ですか?
- 仕事において、どんな時に「もっとこうだったら良いのに」と感じますか?
- 日々の業務の中で、モチベーションが上がるのはどんな時ですか?下がるのはどんな時ですか?
- 今の役割に満足していますか?
- 自身の強みや得意なことは何だと思いますか?
- その強みを、今の仕事でどのように活かせていますか?
- 今後、どんな仕事に挑戦してみたいですか?
- 働き方(労働時間、場所など)について、何か思うことはありますか?
4. 未来のキャリアプランを描くための質問
部下の中長期的なキャリアプランやありたい姿を共に描くための質問です。漠然としたものでも構わないので、自由に考えてもらうことが重要です。
- 3年後、5年後、10年後、どんな自分になっていたいですか?
- 将来的には、どんな役割(例:マネジメント、スペシャリスト)を担っていきたいですか?
- その理想の姿に近づくために、これからどんな経験が必要だと思いますか?
- 会社にどんなサポートを期待しますか?
- 今後、社内でどんなキャリアパスがあるか知っていますか?
- もし、今の会社でキャリアを積んでいくとしたら、どんな貢献ができると思いますか?
- キャリアを考える上で、大切にしている価値観(例:安定、成長、貢献)は何ですか?
- 憧れている人や、目標にしているロールモデルはいますか?
- 仕事以外で、今後挑戦してみたいことはありますか?
- 次の面談までに、何か一つ試してみたいこと、始めてみたいことはありますか?
部下の本音と成長を引き出す「良い質問」3つのコツ
質問リストはあくまで道具です。それを使いこなし、本当に意味のある対話にするためには、質問の仕方にもコツがあります。ここでは、部下の本音と成長を引き出すための3つの重要なポイントを解説します。
1. オープンクエスチョンで内省を促す
「はい/いいえ」で答えられる「クローズドクエスチョン」だけでなく、「どう思う?」「なぜ?」といった、相手が自由に考え、自分の言葉で話す必要がある「オープンクエスチョン」を積極的に使いましょう。
オープンクエスチョンは、部下自身に深く考えさせ、内省を促す効果があります。もし部下が話し慣れていない場合は、「今の仕事は順調ですか?(クローズド)」から始め、「具体的にどんな点が順調だと感じますか?(オープン)」と繋げることで、スムーズに対話に入ることができます。
2. 「なぜ」より「どうすれば」で未来志向の対話に
部下が課題を抱えている場合、「なぜできなかったの?」という過去の原因を追求する質問は、相手を詰問するような印象を与えがちです。それよりも、「どうすれば次はうまくいくと思う?」「その課題を解決するために、どんなサポートがあればできそう?」といった、未来志向の質問を心掛けましょう。これにより、対話が前向きになり、部下は主体的に解決策を考えるようになります。
3. 沈黙を恐れず、相手が考える時間を作る
良い質問を投げかけた後、部下がすぐに答えられないことがあります。その「沈黙」は、部下が自分の内面と向き合い、真剣に考えている時間です。焦って別の質問を投げかけたり、助け舟を出したりせず、上司は辛抱強く待つ姿勢が大切です。沈黙を恐れないことで、部下は安心して思考を深め、普段は意識していなかったような本音やアイデアを言葉にできることがあります。
信頼を損なう!キャリア面談のNG質問と態度
良かれと思ってした質問や態度が、かえって部下の心を閉ざし、信頼関係を損なってしまうことがあります。
ここでは、絶対に避けるべきNGな質問と態度について解説します。
キャリア面談で避けるべきNG質問の具体例
以下のような質問は、相手を追い詰めたり、不快にさせたりする可能性が高いため注意が必要です。
- 詰問・尋問する質問:「なんでできないの?」「前も言ったよね?」
- 誘導・決めつけの質問:「君は本当は〇〇がやりたいんじゃないの?」「普通はこう考えるべきだよ」
- 他人と比較する質問:「同期の〇〇君はもうできているのに、どうして君は…」
- プライベートに過度に踏み込む質問:「結婚の予定は?」「子供はまだ?」 ※ハラスメントに該当する可能性があります。
キャリア面談以外と同様に、採用面接でも聞いてはいけないNG質問が存在します。詳しくは、こちらの記事『採用面接で「聞いてはいけないこと」とは?採用担当者が知っておくべきタブーと質問例について解説します!』で解説しておりますので、合わせてご覧ください。
やってはいけない面談中のNGな態度
質問内容以上に、面談中の上司の態度は、部下の話しやすさに大きく影響します。これらの態度は、「あなたの話に興味がない」という無言のメッセージとなり、部下の心を固く閉ざしてしまいます。
- パソコンの画面を見ながら、キーボードを打ちながら話を聞く。
- 腕を組んだり、足を組んだりして、威圧的な態度をとる。
- 部下の話を遮って、自分の意見や武勇伝を話し始める。
- 「でも」「しかし」「だって」と、否定的な言葉から会話を始める。
- 時計を頻繁に気にするなど、早く終わらせたいという態度を見せる。
【対象者別】キャリア面談の質問のポイントと注意点
キャリア面談では、相手の経験や役職に応じて、質問の重点やアプローチを変えることが効果的です。
ここでは、対象者別のポイントと注意点を解説します。
新入社員・若手社員への質問のポイント
この層には、まず安心感を与え、現在の業務や環境に慣れているかを確認することが最優先です。「入社後のギャップはなかった?」「誰に相談できている?」といった質問で現状を把握し、目の前の業務の成功体験から自信をつけさせることが重要です。未来のキャリアについては、まだ漠然としていることが多いため、焦らずに「どんなことに興味がある?」といったレベルから始めましょう。
とはいえ、最近の親友社員は「Z世代」と呼ばれ、接し方に戸惑う方も多いのではないでしょうか。Z世代の持つ考え方や接し方のポイントについては、こちらの記事『Z世代の働き方とは?人事が知るべきZ世代の特徴と、心を掴む職場作りを解説!』で詳しく解説しておりますので、合わせてご覧くださいませ。
中堅社員への質問のポイント
中堅社員は、仕事に慣れてくる一方で、キャリアの停滞感(中だるみ)を感じやすい時期でもあります。これまでの経験を振り返らせ、「自分の強みは何か」「今後どんな役割で貢献したいか」といった質問で、役割の再認識とステップアップを促すことが重要です。「後輩の育成にどう関わりたい?」など、視座を高める質問も効果的です。
ベテラン・管理職候補への質問のポイント
豊富な経験を持つベテラン社員には、これまでの経験をどう組織に還元していくか、という視点での質問が有効です。「あなたの知識や経験を、チームにどう伝えていきたいですか?」「会社の将来のために、どんな貢献ができると考えますか?」といった質問を通じて、より高い視座での役割を期待していることを伝えましょう。今後のマネジメントへの意向などを確認するのも良いでしょう。
キャリア面談を成功に導く事前準備と進め方の全て
効果的なキャリア面談は、行き当たりばったりでは実現できません。
質問リストと並行して、面談全体のプロセスを設計することが成功の鍵となります。
1. 面談前にすべきこと(目的共有・アジェンダ準備)
面談の日時を決めたら、部下に対して「今回は〇〇について話したいので、少し考えておいてください」と、目的とアジェンダを事前に共有しましょう。これにより、部下も心の準備ができ、当日の対話がスムーズになります。簡単な事前アンケート(現在のやりがい、課題、今後の希望など)を実施し、それに沿って話を進めるのも非常に効果的です。
2. 当日の面談の進め方(導入・本題・まとめ)
当日は、時間を意識した進行が重要です。例えば、50分の面談であれば以下のように時間配分します。
- 導入(5分):アイスブレイクと本日の目的の再確認。
- 本題(40分):事前アンケートやアジェンダに沿って対話。部下が話す時間を7~8割確保する意識を持つ。
- まとめ(5分):話した内容の要約と、次へのネクストアクションの確認。「次の面談までに〇〇を試してみよう」といった、小さな約束をすることが重要。
3. 面談後にすべきこと(記録共有・ネクストアクション)
面談は、やりっぱなしにしないことが最も重要です。話した内容や決定事項を簡単な議事録としてまとめ、部下と共有しましょう。これにより、認識のズレを防ぎ、上司が自分の話を真剣に受け止めてくれたという信頼感にも繋がります。そして、上司は部下と約束したサポート(例:研修の機会を探す、他部署のキーマンに繋ぐなど)を必ず実行に移してください。
まとめ:キャリア面談は「質問」と「傾聴」で成り立つ
本記事では、キャリア面談で使える具体的な質問リストから、面談を成功させるための心構えや進め方までを網羅的に解説しました。 効果的な質問は、部下の内省を促し、新たな気づきを与えるための強力なツールです。しかし、それ以上に重要なのが、上司の「傾聴力」、つまり相手の話に真摯に耳を傾ける姿勢です。
キャリア面談の主役は、あくまで部下です。上司は答えを与える「教師」ではなく、部下のキャリアに寄り添う「伴走者」であるという意識を持って、対話に臨んでください。その姿勢こそが、部下との信頼関係を築き、個人と組織を共に成長させる原動力となるはずです。
明日からの部下との接し方、キャリア面談の進め方がより良いものになるよう、ぜひ本記事を参考に取り組んでみてください。