「最近、学生の動き出しが早まっている気がする」
「このままでは、優秀な学生が他社に取られてしまうのではないか…」
新卒採用に携わる人事担当者様の中には、こうした漠然とした焦りを感じている方も多いのではないでしょうか。事実、新卒採用のスケジュールは年々前倒し傾向にあり、従来のやり方では優秀な人材の確保が難しくなっています。
本記事では、新卒採用がなぜ早期化しているのか、その最新動向と背景を詳しく解説します。さらに、早期化に対応する上でのメリット・デメリットや、リソースの限られる中小企業の人事担当者様が「明日からすぐに実践できる具体的な対策」まで、分かりやすくご紹介します。
新卒採用の早期化はいつから?最新の動向と実態
近年の新卒採用は、政府が要請する「広報活動開始は卒業・修了年度に入る直前の3月1日以降、採用選考活動開始は卒業・修了年度の6月1日以降」というスケジュールよりも、実質的に前倒しで進んでいるのが現状です。広報活動から選考、そして内々定出しに至るまで、あらゆるフェーズで早期化の動きが見られます。
広報活動開始時期の前倒し
現在の新卒採用における広報活動は、大学3年生(修士1年生)の夏に参加するインターンシップから実質的に始まっています。多くの企業が、夏のインターンシップを学生との最初の接点と位置づけており、そのための情報公開はさらに早い時期、春頃から行われるのが一般的です。
マイナビの調査によると、26卒のインターンシップ参加率は85,6%で、ほとんどの学生が5社前後のインターンシップに参加していることが分かります。その中でも、特に優秀な学生は早期から情報収集を始め、目的意識を持ってインターンシップに参加しています。このことからも、従来の3月広報解禁という考え方は、もはや実態にそぐわなくなっていることがわかります。

参考:2026年卒大学生インターンシップ・就職活動準備実態調査(中間総括)
内々定出しのピーク時期の変化
広報活動の早期化に伴い、学生への内々定出しの時期も大幅に前倒しされています。かつては大学4年生の6月以降が内々定出しのピークでしたが、現在ではその時期が年々早まり、卒業・修了年度の春、3月から5月にかけて一つのピークを迎えるようになっています。
学情の調査によると、2027年卒採用の内々定出しの開始予定は、「2025年12月」が16.3%で突出しています。11月以前も合わせると、年内で約半数近くの企業が一定数の内々定者を確保しようとしていることが分かります。そのため、6月の選考解禁を待っていては、会いたい学生の多くが既に就職活動を終えているという事態になりかねません。

参考:株式会社学情(4)2027年卒採用の内々定出し開始予定は「2025年12月」が最多。年内開始の企業が45%
長期化する採用活動
採用活動の開始時期が早まっている一方で、終了時期が早まっているわけではない点も大きな特徴です。むしろ、早期から活動する企業、従来のスケジュールで動く企業、そして夏以降に採用活動を本格化させる企業などが混在し、採用市場全体としては活動期間が長期化する傾向にあります。
これにより、人事担当者は長期間にわたって採用活動に対応する必要があり、業務負荷が増大しています。また、学生にとっても、早期に活動を終える層と、じっくり時間をかけて企業選びをする層に分かれ、就職活動のスタイルが多様化しています。
なぜ新卒採用の早期化が進むのか?その背景を解説
ここでは、なぜ採用の早期化がここまで進んでいるのか、その主な理由を4つの側面から解説します。
優秀な人材の獲得競争の激化
新卒採用が早期化する最も大きな要因は、企業間における優秀な人材の獲得競争の激化です。少子高齢化に伴う労働人口の減少は深刻であり、多くの企業が将来の事業を担う若手人材の確保に強い危機感を抱いています。
厚生労働省の調査によると、日本の人口は今後減少し続けており、特に15~64歳人口の減少ペースが顕著に表れています。新卒採用の対象となる若い世代の人口が減少していることから、企業が求める人数に対して、就職を希望する学生の数が少ないという根本的な構造が存在します。

参考:人口減少社会への対応と人手不足の下での企業の人材確保に向けて
インターンシップの多様化と本選考化
インターンシップのあり方が変化したことも、早期化を後押しする大きな要因です。2025年卒の採用活動からは、政府が定めた一定の基準(汎用的能力・専門活用型インターンシップなど)を満たすインターンシップにおいて、企業が参加学生の情報を採用選考に利用することが公式に認められました。
これにより、インターンシップは単なる仕事体験や企業理解の場に留まらず、実質的な選考プロセスの一部として機能するようになっています。企業にとっては学生の能力や人柄をじっくり見極める機会となり、学生にとっても早期に内定へ繋がるルートとして、その重要性はますます高まっています。
変化したインターンシップのポイントについては、こちらの記事『採用直結型インターンシップとは?変更点と採用成功につなげるポイントを解説』で解説しておりますので、合わせてご覧ください。
就活ルールの形骸化
かつては経団連が「採用選考に関する指針」を定め、企業の採用活動スケジュールに一定の秩序をもたらしていました。しかし、2021年卒採用からは政府主導となり、このルールには罰則規定がなく、あくまでも”要請”という位置づけです。そのため、ルールに従わない企業があったとしても、それを法的に制限することはできません。
結果として、この就活ルールは形骸化し、多くの企業が実態に合わせて独自の採用スケジュールを組むようになっています。特に外資系企業やITベンチャー企業などが早期から採用活動を行うことで、他の企業も追随せざるを得ない状況が生まれ、全体としての早期化に拍車がかかっています。
学生側の早期活動への意識変化
厚生労働省が実施している学生向けアンケート調査によると、採用活動時期の就活ルールが必要と回答する割合が多い一方で「現在の開始時期よりも早い方が良い」「ルールは必要ない」と回答している学生も多いことが分かります。

参考:厚生労働省データ「2026年度卒業・修了予定者の就職・採用活動日程に関する考え方」
加えて、SNSや口コミサイトの普及により、学生は早い段階から就職活動に関する情報を容易に入手できるようになっています。そのため、友人や先輩の活動状況が可視化されることで、「周りに乗り遅れたくない」「早く内定を獲得して安心したい」という心理が働き、低学年のうちからインターンシップに参加するなど、早期に活動を開始する学生が増えています。
パーソル総合研究所の調査によると、就活を開始する時期について、2019年は「大学3年生冬」になると一斉に動き出すのに対して、2025年は「大学2年生冬」までに既に2割が就活を開始していることが分かります。さらに大学偏差値別でみると、難関大学では早期から活動を開始する就活生が多い傾向にあります。

参考:「新卒就活の変化に関する定量調査」を発表 学生の「やりたいこと志向」や「成長意欲」が大幅に低下
新卒採用を早期化する企業のメリット・デメリット
ここでは、企業側と学生側、双方の視点からメリット・デメリットを整理します。これらの両側面を正しく理解し、自社のリソースや採用方針と照らし合わせながら、最適な戦略を検討することが重要です。
企業側のメリット
企業が採用活動を早期化する最大のメリットは、優秀な学生と早期に接触できる機会が増えることです。多くの学生が動き出す前にアプローチすることで、競合他社がまだ本格的に活動していない段階で自社の魅力をじっくりと伝えられます。インターンシップなどを通じて早期から関係性を構築できれば、学生の入社意欲を高め、囲い込みを図ることが可能です。結果として、採用ターゲットとなる人材を計画通りに確保しやすくなり、採用目標の早期達成にも繋がるでしょう。
企業側のデメリット
一方で、デメリットも少なくありません。最も大きな課題は、採用活動期間の長期化による人事担当者の工数増大です。早期から活動を始め、内定を出した後も入社まで長期間にわたるフォローが必要になるため、時間的・人的コストが増加します。
また、早期に内々定を出した場合、学生がその後も就職活動を続けることで、より志望度の高い企業から内定を得て辞退してしまう「内定辞退」のリスクが高まります。学生の業界・企業研究が浅い段階で接触することによるミスマッチの懸念も考慮すべき点です。
学生側のメリット・デメリット
人事担当者としては、学生側のメリット・デメリットを理解しておくことも大切です。学生にとってのメリットは、早期に内定を得ることで精神的な余裕が生まれ、残りの学生生活を学業や研究に集中できる点です。また、早い時期から活動することで、より多くの業界や企業を比較検討する時間を確保できるという側面もあります。
しかし、デメリットとして、周囲の動きに焦ってしまい、自己分析や企業研究が不十分なまま就職先を決めてしまうリスクが挙げられます。学業との両立が難しくなるという負担も大きな課題といえるでしょう。
新卒採用の早期化で人事が明日からできる具体的対策5選
ここでは、5つの具体的な対策を厳選してご紹介します。自社の状況に合わせて、取り入れられるものからぜひ実践してみてください。
採用スケジュールの抜本的な見直し
まずは、「3月広報解禁、6月選考開始」という従来の固定観念を一度リセットすることから始めましょう。重要なのは、自社がターゲットとする学生層がいつ頃から、どのような情報を求めて動き出すのかを把握し、そこから逆算してスケジュールを設計することです。
例えば、ITエンジニア志望の学生であれば、大学3年生の夏休みには技術系のインターンシップを探し始めます。その動きに合わせて、春にはインターンシップの情報を公開し、夏にはプログラムを実施、秋には早期選考へ案内するといった、一貫した計画を立てることが有効です。
それぞれの時期で学生がどんな動きをしているか、こちらの記事『【新卒採用はいつから?】2026年卒向け採用スケジュールと成功の鍵を徹底解説』で詳しく解説しておりますので、合わせてご覧ください。
インターンシップの内容を刷新する
早期化する採用活動において、学生との最初の重要な接点となるのがインターンシップです。単に会社説明を聞くだけの1dayプログラムでは、学生の心に響きません。重要なのは、仕事の面白さや難しさ、そして社内の雰囲気をリアルに体感してもらうことです。
例えば、現場で活躍する若手社員やエース社員との座談会を設けたり、実際の業務に近い課題に取り組むワークショップを企画したりすることで、学生は働くイメージを具体的に描けるようになります。こうした体験を通じて自社のファンになってもらうことが、その後の選考参加や内定承諾に繋がりやすくなります。
座談会についてはこちらの記事『座談会とは?メリットや具体的な開催方法、質問例について紹介』で詳しく解説しておりますので、合わせてご覧ください。
早期から接触できる採用チャネルを活用する
ナビサイトに情報を掲載して、学生からのエントリーを待つだけの採用手法では、早期化の波に乗り遅れてしまいます。企業側から積極的に学生へアプローチできる採用チャネルを活用しましょう。特におすすめなのが、大学1・2年生といった低学年のうちから登録している学生も多いダイレクトリクルーティング(スカウト)サービスです。自社の求める要件に合致した学生のプロフィールを検索し、直接メッセージを送ることで、まだ世の中に広く知られていない自社の魅力を個別に伝えられます。
弊社が運営している「キミスカ」は、就活生の3人に1人が活用するダイレクトリクルーティングシステムです。3種類のスカウトを活用して、工数を削減しながら効率的にターゲット学生との接点を増やすことが可能です。デモ画面もご覧いただけますので、ぜひこちらからお気軽にご連絡ください。
※お問い合わせはこちら
選考プロセスの迅速化とオンライン化
優秀な学生ほど、複数の企業からアプローチを受けています。学生との接点が生まれてから内々定を出すまでのリードタイムが長いと、その間に他社の選考が進み、流出してしまうリスクが高まります。そのため、選考プロセス全体を見直し、迅速化を図ることが重要です。
具体的には、煩雑なエントリーシートの設問を簡素化する、Webテストや録画面接を導入して一次選考の効率を上げる、面接の日程調整をツールで自動化するといった方法が考えられます。特に一次面接や二次面接をオンラインで実施することは、遠方の学生にとっても参加のハードルが下がり、母集団形成にも繋がるでしょう。
内定者フォローを手厚くする
早期に内々定を出した場合、入社までの期間が半年から1年以上と長くなります。この期間、学生は「本当にこの会社で良いのだろうか」という不安(内定ブルー)に陥りがちです。この不安を解消し、入社意欲を維持・向上させるための内定者フォローは、早期化戦略において極めて重要です。
具体的な施策としては、内定者同士の交流を深める懇親会やグループワークの実施、人事以外の現場社員と定期的に話せる面談の機会設定、入社前に役立つスキルを学べるコンテンツの提供などが挙げられます。きめ細やかなフォローを通じて、学生との信頼関係を築き続けることが内定辞退の防止に繋がります。
新卒採用の早期化を進める上での注意点
最後に、早期化に取り組む上で人事担当者が必ず心に留めておくべき3つの重要な注意点について解説します。
目的の不明確な早期化は避ける
採用の早期化は、あくまでも目的を達成するための「手段」です。「競合他社が始めたから」「なんとなく乗り遅れたくないから」といった曖昧な理由で早期化に踏み切るのは非常に危険です。
まずは、「なぜ自社は採用活動を早期化する必要があるのか」「それによって、どのような学生を、いつまでに、何人採用したいのか」という目的と具体的な目標を明確にしましょう。その上で、経営層や現場の責任者ともしっかりと意思疎通を取り、全社的な協力体制を築いてから施策を実行に移すことが成功の鍵となります。
学生の学業への配慮を忘れない
採用活動を早期化する際には、学生の本分が学業であることを忘れてはなりません。企業の都合だけで、平日の日中に何度も選考への参加を強いるようなスケジュールは、学生にとって大きな負担となります。特に、大学3年生や修士1年生のうちは、授業や研究で多忙な日々を送っています。
そのため、オンライン面接を活用したり、選考を土日や平日の夕方以降に設定したりするなど、学生が学業と両立しやすいように配慮する姿勢が求められます。こうした配慮は、学生からの企業イメージの向上にも繋がり、結果として採用競争力を高めることにもなるでしょう。
内定辞退リスクへの備え
どれだけ手厚い内定者フォローを実施したとしても、残念ながら内定辞退をゼロにすることは困難です。特に早期に内々定を出した場合、学生はその後も多くの企業と出会う機会があり、心変わりをする可能性は常にあります。
そのため、あらかじめ一定数の辞退者が出ることを想定し、リスクヘッジをしておくことが重要です。過去のデータから自社の内定辞退率を算出し、最終的な採用目標人数を達成するためには何人に内々定を出せばよいのかを計画しておきましょう。また、補欠合格者をリストアップしておく、あるいは夏採用や秋採用といった二次募集の実施を視野に入れておくことも有効な対策となります。
まとめ
本記事では、新卒採用の早期化に関する実態と、人事担当者が今すぐ取り組むべき対策を解説しました。重要なポイントを以下3点にまとめます。
- 1. 早期化の実態を認識する:大学3年生の夏から実質スタートしており、従来のスケジュールでは優秀な学生の獲得競争に勝てません。
- 2. 「待ち」から「攻め」の採用へ切り替える:インターンシップの刷新やスカウト活用など、早期から学生に直接アプローチし、選考プロセスを迅速化することが重要です。
- 3. 目的の明確化と内定辞退に備える:「なぜ早期化するのか」という目的を明確にし、早期内定出しに伴う「内定辞退リスク」に備えた手厚いフォローが必須です。
新卒採用は早期化する一方で長期化しており、学生の動きに合わせて企業が能動的にアプローチしていく姿勢が重要です。世の中の動向に流されるのではなく、上記ポイントを踏まえて自社に合った戦略を立て、早期化の波を乗りこなしていきましょう。







