
「若手社員の離職が続いている…」
「社員のモチベーションを、どう高めればいいか分からない」
こうした課題を解決し、社員のエンゲージメントと定着率を高める施策として、今「キャリア面談」が注目されています。しかし、いざ導入しようとしても「どんな話をすればいいのか」「ただの雑談で終わってしまいそう」と、進め方に悩む人事担当者は少なくありません。
本記事では、そんな担当者の悩みを解決するため、効果的なキャリア面談を実現する「キャリア面談シート」について、明日から使えるテンプレートや具体的な質問例、成功に導くステップまでを網羅的に解説します。
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明日から使えるキャリア面談シートのテンプレート
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社員の本音を引き出す、目的別の具体的な質問例
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面談を成功に導くための、事前準備から面談後までの4ステップ
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キャリア面談で陥りがちな失敗と、その対策
キャリア面談シートとは?
キャリア面談は、社員一人ひとりのキャリアプランや成長について、上司と部下が対話するための重要な機会です。そして、その面談を有意義なものにするために不可欠なツールが「キャリア面談シート」です。
キャリア面談シートが注目される背景
近年、働き方の多様化や価値観の変化に伴い、社員が自身のキャリアについて考える機会が増えています。企業側も、社員のキャリア自律を支援し、エンゲージメントを高めることが、人材の定着と組織の成長に不可欠であると認識し始めました。こうした背景から、社員と組織の方向性をすり合わせ、個人の成長を促すための具体的な仕組みとして、キャリア面談と、その羅針盤となるキャリア面談シートが注目されているのです。
1on1との違い
キャリア面談と1on1は、どちらも上司と部下が1対1で行う面談ですが、その目的と時間軸が異なります。それぞれの目的や頻度を理解し、適切な運用をしていきましょう。
比較項目 | キャリア面談 | 1on1ミーティング |
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目的 | 社員の中長期的なキャリア形成を支援する | 部下の短期的な業務課題解決と目標達成を支援する |
主なテーマ | ・キャリアプラン ・価値観、強み・弱み ・理想の将来像 | ・業務の進捗、悩み ・人間関係 ・心身の健康状態 |
時間軸 | 未来志向(半年~3年後など) | 現在~短期志向(今週、今月など) |
開催頻度の目安 | 半期~年1回 | 週1回~月1回 |
話の主役 | 社員(部下) | 上司と部下の双方 |
キャリア面談シートを活用する3つのメリット
キャリア面談シートを導入・活用することには、社員と企業の双方にとって大きなメリットがあります。ここでは、代表的な3つのメリットについて、それぞれ具体的に解説します。
メリット1:対話の質を高め、雑談で終わらせない
キャリア面談シートという共通の「対話の土台」を用意することで、面談が単なる雑談で終わるのを防ぎ、具体的で建設的な話し合いができるようになります。社員は事前に自身の考えを整理でき、上司もそれを元に質問を投げかけることで、キャリアに関する本質的な対話へと自然に導くことができます。
メリット2:社員の自己理解とキャリア自律を促す
社員にとっては、シートに記入する過程で、自身の経験や価値観、今後の目標を客観的に振り返り、言語化する良い機会となります。これまで漠然としていたキャリアプランが明確になることで、日々の業務に対するモチベーションが向上し、主体的にキャリアを考える「キャリア自律」の意識を高める効果が期待できます。
メリット3:離職防止とエンゲージメント向上に繋がる
上司は、シートを通じて部下の価値観やキャリアプランを深く理解でき、一人ひとりに合った適切なサポートや動機付けが可能になります。「会社は自分のキャリアを気にかけてくれている」という安心感と信頼関係が、エンゲージメント(仕事への熱意や貢献意欲)を高め、ミスマッチによる早期離職を防ぐことに繋がります。
※新卒の早期離職の原因と対策については、こちらの記事『なぜ新卒はすぐ辞める?早期離職の理由と、定着率を高める具体的な方法を解説!』で詳しく解説しているので、合わせてご覧ください。
【コピペOK】明日から使えるキャリア面談シート
キャリア面談シートのテンプレートを参考に、自社に合うものを作成してみましょう。
キャリア面談シートの全体像
効果的なキャリア面談シートは、単に質問を並べたものではありません。「過去から現在(現状把握)」→「未来(キャリアプラン)」→「組織との接続(貢献と要望)」という、論理的な時間の流れで構成することが重要です。
この流れに沿って対話を進めることで、社員は自身のキャリアを体系的に見つめ直し、会社で働く未来を具体的にイメージできるようになります。この後の章で、各パートの具体的な質問例を詳しく解説していきます。
【テンプレート】キャリア面談シート
以下の項目は、コピーしてそのままお使いいただけます。自社の状況に合わせて項目を修正・追加して活用してみてください。
キャリア面談シート | |
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所属部署: 氏名: 面談日: 面談者(上司): | |
フェーズ | 主な質問項目 |
1. 現状把握 過去と現在の振り返り | ・これまでの業務で、特にやりがいを感じたことや、自身の成長に繋がった経験は何ですか? ・逆に、難しかったことや、課題に感じたことは何ですか? ・現在の業務において、満足している点と、改善したい点は何ですか? ・ご自身の強み(得意なこと)と、今後伸ばしていきたい弱み(課題)は何だと認識していますか? |
2. 未来志向 今後のキャリアプラン | ・3年後、5年後、どのようなスキルを身につけ、どのような仕事や役割を担っていたいですか? ・最終的に、どのようなキャリアを実現したいと考えていますか?(専門性を極める、マネジメントに挑戦するなど) ・そのキャリアを実現するために、現在取り組んでいることや、今後学びたいことはありますか? |
3. 会社との接続 組織への貢献と要望 | ・今後のキャリアプランを実現する上で、現在の部署や会社でどのような貢献ができると考えていますか? ・自身の成長やキャリア実現のために、会社や上司にどのようなサポート(研修、業務アサインなど)を期待しますか? ・その他、働き方や職場環境に関して、何か要望や相談したいことはありますか? |
キャリア面談シート:各項目の目的と質問の意図
前章で提示したテンプレートを元に、各項目でどのような質問を投げかけるのが効果的なのかを、より深く解説します。質問の意図を理解することで、社員からより本質的な答えを引き出し、有意義な対話に繋げることができます。
【現状把握】過去と現在の振り返り
このパートの目的は、社員自身にこれまでの経験を内省してもらい、自己理解を深めてもらうことです。上司は評価者ではなく、傾聴者として、社員が自身の強みや課題を言語化するのをサポートします。成功体験だけでなく、失敗体験から何を学んだかを聞くことで、その人の成長意欲やレジリエンス(困難から立ち直る力)を理解することができます。
【未来志向】今後のキャリアプラン
社員がどのような未来を描いているのか、その志向性を理解するためのパートです。重要なのは、「会社に残ること」を前提とせず、あくまで社員個人の人生におけるキャリアプランとして話を聞く姿勢です。漠然とした目標しか持てていない社員に対しては、「どんな働き方をしている時に楽しいと感じるか」といった質問から始め、少しずつ未来の解像度を高めていく手助けをしましょう。
【会社との接続】組織への貢献と要望
最後に、社員個人のキャリアプランと、会社のビジョンや事業戦略をすり合わせるパートです。社員が描く未来と、会社が提供できる機会をどう結びつけられるかを探ります。「〇〇という目標があるなら、来期はこのプロジェクトに参加してみないか?」といった具体的な提案に繋げることが理想です。ここで出てきた要望を無視すると、社員のエンゲージメント低下に直結するため、真摯に受け止め、可能な限りのサポートを約束することが重要です。
【目的別】キャリア面談で本音を引き出す質問例
ここでは、「現状把握」「未来志向」「会社との接続」という3つの目的に分け、具体的な質問例と、さらに深掘りするための追加質問を解説します。
現状把握のための質問例(過去~現在)
このフェーズの目的は、社員の自己認識を深め、成功体験や課題感を言語化してもらうことです。上司は、本人が気づいていない強みや価値観を引き出す「鏡」の役割に徹しましょう。
- やりがい・成長について:「これまでの業務で、時間を忘れるくらい没頭できた仕事はありますか?それはなぜですか?」
- 強み・得意なことについて:「周りの人から、どんなことで頼られたり、感謝されたりすることが多いですか?」
- 課題・改善点について:「もし半年前の自分にアドバイスできるとしたら、どんな言葉をかけますか?」
<さらに深掘りするための追加質問>
- その経験から、何を学びましたか?
- なぜ、その時にやりがいを感じたのだと思いますか?
- その強みを、今後どのように仕事で活かしていきたいですか?
未来志向のための質問例(今後のキャリアプラン)
社員が自身のキャリアについて、視野を広げて考えるきっかけを作るための質問です。正解を求めるのではなく、本人がワクワクするような未来を一緒に探すスタンスが重要です。
- 理想の姿について:「仕事に限らず、3年後、どんな自分になっていたら理想的だと思いますか?」
- 興味・関心について:「最近、気になっているニュースや、学んでみたいことはありますか?」
- 挑戦したいことについて:「もし、失敗する心配が全くないとしたら、どんな仕事に挑戦してみたいですか?」
<さらに深掘りするための追加質問>
- その理想を実現するために、明日からできそうな小さな一歩は何でしょう?
- なぜ、その分野に興味を持ったのですか?
- その挑戦には、どんなスキルや知識が必要になると思いますか?
会社との接続のための質問例(組織への貢献と要望)
個人のキャリアプランと、会社のビジョンや目標を結びつけるための質問です。社員が「この会社でなら、自己実現と会社への貢献を両立できそうだ」と感じられるように対話を進めます。
- 貢献について:「ご自身の強みを活かして、チームや会社に今以上に貢献できることは何だと思いますか?」
- サポートの要望について:「あなたのキャリア目標を達成するために、私(上司)や会社は、どんなサポートをすれば一番助けになりますか?」
- 環境について:「あなたが最もパフォーマンスを発揮できるのは、どんな環境ですか?今の職場環境で、さらに良くできる点はありますか?」
<さらに深掘りするための追加質問>
- その貢献を実現するために、何か必要な権限や情報はありますか?
- そのサポートがあれば、ご自身の成長はどのように変わると思いますか?
- 具体的に、チームのどんな点を改善すれば、より働きやすくなりますか?
キャリア面談を成功に導く4ステップと進め方
効果的なキャリア面談は、当日の対話だけで完結するものではありません。入念な「事前準備」から、面談後の「フォローアップ」、そしてその結果を組織全体に活かす「戦略への活用」まで、一連のプロセスとして設計することが成功の鍵です。
ステップ1:事前準備(社員への周知とシート記入依頼)
まず、キャリア面談の目的を全社に周知します。これが「評価を決める査定面談」ではなく、「社員の成長をサポートするための対話の場」であることを明確に伝え、心理的安全性を確保しましょう。その上で、少なくとも面談の1〜2週間前には対象の社員にシートを配布し、記入を依頼します。これにより、社員は自己分析の時間を十分に確保でき、上司も事前に内容を読み込んで、当日の対話の質を高めることができます。
ステップ2:面談の実施(当日の流れと傾聴のコツ)
当日は、上司が一方的に話すのではなく、社員が8割、上司が2割くらいの会話量を意識します。重要なのは、評価やアドバイスを急がず、まずは相手の話を深く「傾聴」する姿勢です。記入されたシートの内容について、「なぜそう思うの?」「具体的にどんな経験があった?」といったオープンな質問を投げかけ、社員の内省を深める手助けをしましょう。面談の最後には、次のアクションプランを共に考え、ポジティブな雰囲気で締めくくります。
ステップ3:面談後のフォローアップと記録
キャリア面談は、実施して終わりではありません。面談で決まったアクションプランの進捗を、1ヶ月後や3ヶ月後といったタイミングで確認し、継続的にサポートする姿勢が重要です。また、面談内容は、次の面談時に振り返れるよう、必ず記録として残しておきましょう。この記録の蓄積が、社員一人ひとりの成長の軌跡となり、より長期的な視点でのキャリア支援を可能にします。
ステップ4:面談内容の人事戦略への活用
これは、キャリア面談を組織の力に変えるための、最も戦略的なステップです。各面談で得られた全社的な傾向(例えば、「若手社員はマネジメントよりも専門性を高めたいと考えている人が多い」など)を分析し、人事戦略に活かします。個別の面談記録を元に、新たな研修プログラムを企画したり、部門間の異動・配置を最適化したり、サクセッションプラン(後継者育成計画)の検討材料にすることで、キャリア面談は個人の成長支援だけでなく、組織開発の強力なエンジンとなります。
キャリア面談でよくある失敗と注意点
キャリア面談は、進め方を誤ると、かえって社員のモチベーションを下げてしまうリスクもあります。ここでは、多くの企業が陥りがちな3つの失敗例とその対策を解説します。
上司の主観による「評価面談」になってしまう
最も多い失敗が、キャリアについて対話するはずが、いつの間にか上司が部下の業務を評価・説教する「評価面談」になってしまうケースです。キャリア面談の主役はあくまで社員本人であり、上司はコーチやサポーターであるという役割認識を徹底する必要があります。面談前には、管理職向けにキャリア面談の目的や進め方に関する研修を実施し、評価と対話を明確に分離する意識付けを行うことが不可欠です。
ただの雑談で終わり、具体的なプランに繋がらない
シートを使わずに場当たり的に面談を行うと、単なる世間話や業務の進捗確認だけで時間が過ぎてしまい、キャリアに関する本質的な対話ができないまま終わってしまうことがあります。これを防ぐのが、まさにキャリア面談シートの役割です。シートの項目に沿って対話を進めることで、議論が発散するのを防ぎ、面談の最後には具体的なアクションプランに落とし込むというゴールを常に意識することが重要です。
シートの回収だけで、その後の育成に活かされない
「シートを回収すること」自体が目的化してしまい、その後のフォローアップや育成施策に全く繋がっていないケースも少なくありません。社員からすれば、「あれだけ時間をかけて書いたのに、何も変わらない」と感じ、会社への不信感に繋がります。面談で出てきた要望や目標に対し、会社としてどのようなサポートができるのかを具体的に示し、実行することが、制度への信頼を築き、社員のエンゲージメントを高める上で最も重要です。
まとめ
本記事では、キャリア面談を成功に導くためのキャリア面談シートについて、テンプレートから具体的な活用法までを網羅的に解説しました。キャリア面談を実施することで、以下のようなメリットが期待できます。
- 社員のキャリア自律と成長意欲を促せる
- 上司と部下の信頼関係を深め、離職防止に繋げられる
- 面談の質を高め、具体的で前向きな対話ができる
キャリア面談シートは、社員一人ひとりのキャリアと向き合い、組織と個人の成長を繋ぐための極めて重要なコミュニケーションツールです。ぜひ本記事を参考に、効果的なキャリア面談の仕組みを構築してください。