
自社に合った人材を採用できるかどうかは、多くの企業が抱える悩みの一つです。近年は新卒・中途の採用にあたり、「ペルソナ」を設定した方法が主流となっていますが、企業はどのように活用すれば良いのでしょうか。
今回は、採用活動におけるペルソナシートの作り方をご紹介します。また、ペルソナ設定のメリットをはじめ、ペルソナシート作成時のポイントや注意点なども紹介するので、ぜひ参考にしてみてください。
ペルソナシートとは?
ペルソナは、もともとスイスの心理学者・ユングが提唱した用語です。ビジネスの場ではマーケティング領域において使われることが多く、特定の商品やサービスを利用する具体的な人物像のことを指しています。
そしてペルソナシートとは、ペルソナの人物像をより明確にするために年齢・職業・思考・行動傾向などをまとめた資料のことです。採用活動にペルソナシートを取り入れれば、就活生の心理や行動を理解するための一助となります。
ターゲットとの違い
ペルソナと混同しがちな用語に「ターゲット」もありますが、ペルソナのほうが人物像を細かく設定しています。ペルソナが年齢・大学名・性格・趣味・行動特性などを細かく設定しているのに対し、ターゲットの場合は性別・年代・居住地といった基本的な情報しか想定されません。
仮に、採用活動でターゲットを設定して経営層や現場社員に共有すると、人によって想像する人物像が異なる可能性があります。そのため、採用する人物像の共通認識を持つためにも、ペルソナで人物像を細かく設定することが重要なのです。
採用にペルソナ設計が求められる背景
売り手市場と言われる昨今、リクルートワークス研究所が発表した「ワークス大卒求人倍率調査(2025年卒)」によると、2024年3月卒の有効求人倍率は1.75倍となっています。企業にとっては人材の獲得が難しい状況が続いていますが、離職率の増加も大きな課題となっているのが実情です。
厚生労働省が2023年に発表した「新規学卒就職者の離職状況」を見てみると、就職後3年以内の離職率は大卒で32.3%となっており、前年度より0.8%上昇する結果となりました。
離職の理由はさまざまですが、企業は優秀な人材を獲得するだけでなく、長期に渡って活躍してくれる人材を採用する必要があるでしょう。そこで、採用活動の精度を高め、どういった人材を採用するのかを具体的にまとめたペルソナシートに注目が集まっています。
ペルソナシートを採用活動に取り入れるメリット
ペルソナシートを作成して採用活動を行うことで、企業にはどういったメリットがあるのでしょうか。3つのポイントを見ていきましょう。
応募者に対して効果的なアピールが可能
あらかじめペルソナを設計しておくことで、企業は「自社の何をアピールすれば採用したい人材に響くのか」を考えやすくなります。採用したい人材のイメージが曖昧だったり、ペルソナが不明確だったりすると、自社がアピールしたい内容だけを訴求することになりかねません。
自社が求める人物の価値観や特性などをペルソナとして設計することで、応募者に対して効果的な訴求が可能となります。アピールポイントは企業によってさまざまですが、応募者にアピールすべきポイントかどうかの区別ができるため、ペルソナの設計は採用活動において大きく役立つでしょう。
応募者と企業のミスマッチを防げる
応募者と企業とのミスマッチは、早期退職による経済的・時間的な損失につながるリスクがありますが、ペルソナシートを活用することで回避できる可能性があります。
例えば、ペルソナシートに「ワークライフバランスを重視できる企業で働きたい」という情報を設定した場合、募集要項ではプライベートの時間を充実させられる働き方をアピールしても良いでしょう。ペルソナが設定された求人情報を作成できれば、応募者は自分に合った企業なのかどうかを判断しやすくなります。さらに、企業はペルソナによって求める人材を絞っているため、採用の精度を高めることが可能です。
このように、ペルソナシートの活用はミスマッチ防止につながるため、企業だけでなく応募者にとってもメリットの大きい取り組みと言えます。
求める人物像を社内で共有しやすい
企業の規模や体制などによっては、複数の部署と関わって採用活動を進めることもあるでしょう。そこで、ペルソナシートを作成しておけばどういった人材を採用したいのかが明確になっているため、社内での認識のズレをなくすことができます。
また、面接では人事担当者だけでなく現場社員や役員が面接官を務めることがほとんどです。あらかじめ面接官にペルソナシートを共有しておくことで、合否の判定をスムーズに行えるほか、自社に合った人材を採用できる可能性が高まるでしょう。
採用活動に使うペルソナシートの作成・活用法
ここからは、ペルソナシートの作成方法と採用活動に取り入れる際の活用法について紹介します。自社が求める人物像を明確にし、採用活動を成功させるためにも、6つのポイントを把握しておきましょう。
なお、採用したい学生の人物像を作るテンプレートは、下記リンクよりDLできます。ぜひ御社の採用活動に役立ててみてください。
採用の目的を明確にする
ペルソナシートを作成する前の準備として、まずは採用の目的を明確にしましょう。というのも、採用の目的によって求める人材の要件が異なるためです。例えば、欠員の補充が目的であれば一定のスキルがある人を中途採用するか、新入社員に教育するなどの選択肢が挙げられるように、目的が明確になることで企業がやるべきことも具体的になっていきます。
経営層や現場の意見を拾い上げることも重要ですが、すでに採用計画書を作成している場合は採用の目的を決めやすいでしょう。採用計画書には採用の目標や人材要件などをまとめる必要があるため、ペルソナシート作成とあわせて考えるのもおすすめです。
採用計画書の作り方やポイント、注意点などについては以下の記事を参考にしてみてください。
自社に必要な人材を定義する
採用の目的が定まったら、自社に必要な人材を定義します。こちらも、どの部署にどんな人材が必要なのかを採用計画書にまとめている場合は、人材の要件を書き出しやすいでしょう。もちろん、自社に必要な人材を定義する際に、採用計画書の内容を精査するのもおすすめです。
会社の経営戦略を実現するために必要な人材や、部署別に求める人材の要件を可能な限り書き出していきましょう。なお、人材の定義に必要な情報が思い浮かばない場合は、自社で活躍している社員を分析したりインタビューを行ったりすることで、ヒントが得られる場合もあります。
ペルソナのアウトラインを作成
続いて、ペルソナのベースとなるアウトラインを作成していきます。人材の定義で書き出した“自社に必要な人材の条件”から連想される、人物像のストーリーを考えていきましょう。
例えば、「未経験」「SE」「協調性」を条件に挙げた場合、求める人物像のストーリーは次のようになります。
「実務の経験はないが、仕事を進めるうえではチームワークを重視しており、IT関連の中でもSEとしての仕事を考えている新卒の就活生」
また、ここから「企業選びで重視すること」をはじめ「趣味」や「悩み」といった情報を肉付けし、ペルソナのアウトラインを作成していきましょう。
現場で認識のズレを擦り合わせる
アウトラインはまだ仮のペルソナなので、現場の社員と共有して認識のズレがないかどうかを擦り合わせましょう。中途採用なら必要なスキルや能力などの条件が満たせているか、新卒採用なら若手社員や年齢の近い社員にも確認してもらうのがポイントです。
注意点として挙げられるのは、経営層と現場がイメージするペルソナに違いがある可能性もあること。場合によっては双方の条件を満たすペルソナが設計できないこともあります。このようなときは、経営層と現場からヒアリングした条件の中から、以下のように分類しましょう。
分類 | 例 |
MUST(必要条件) | ・要件定義の実施経験・コーディング経験3年以上 |
WANT(十分条件) | ・ITパスポート取得済 |
BETTER(歓迎条件) | ・マネジメント経験 |
NEGATIVE(不要条件) | ・営業経験・普通自動車免許 |
このように要件の優先順位を決めることで、自社に合った人物像がイメージしやすく、現実的なペルソナを設定しやすくなります。
最新の採用市場と照らし合わせる
より現実的なペルソナを設計するために、最新の採用市場と照らし合わせることも大切なポイントです。採用市場といっても新卒・中途に分かれ、それぞれ最新の情報を把握しておかないと効果的な訴求ができず、母集団形成も難しくなるかもしれません。
そのため、作成したペルソナのアウトラインを現場で擦り合わせるだけでなく、新卒・中途の市場動向と照らし合わせて、ペルソナの精度を高めていくことが大切です。もしも中途の採用市場に経験者が少ない場合は、求める人材の条件から「経験者」を省き、再度ペルソナを考え直してみても良いでしょう。
ペルソナをもとに募集・選考
ペルソナを経営層や現場と擦り合わせ、採用市場とも照らし合わせたら、実際に募集や選考に活用していきましょう。例えば、募集を行う際は設計したペルソナをベースに、要件や訴求ポイントを求人内容にまとめていきます。
また選考時には、あらかじめ面接官にペルソナを共有しておくことで、人ごとに異なる評価のズレを抑えることも可能です。企業によっては複数の部署から面接官を選定することもありますが、面接官マニュアルなどを用意しておけば、選考の質をさらに高められるでしょう。
ペルソナシート作成の注意点
ペルソナシートを作成しておけば、企業と応募者のミスマッチを防ぎ、自社が求める人材に対して効果的なアピールをすることが可能です。しかし、設計したペルソナが曖昧だったり、細かい情報を盛り込みすぎたりすると、採用の失敗につながる可能性もあります。
ペルソナシート作成時はどういった点に注意すれば良いのか、詳しく見ていきましょう。
ペルソナを曖昧に設定しない
ペルソナを設計する際は、できるだけ具体的な内容にすることが重要です。例えば、「20代女性」のように曖昧な設定をしていると、人によってイメージする姿は異なってしまいます。
そこで、ペルソナを設計するときは「学生時代に力を入れたこと」などの就活で定番の項目を入れたり、「仕事に対する考え方」や「休日の過ごし方」などを入れたりして、詳細を設定することが大切です。採用におけるペルソナは「自社でどんな人材を採用したいのか」を明確にする必要があるため、ペルソナシート作成時は曖昧にせず具体性のある内容に仕上げましょう。
細かすぎる設定もNG
ペルソナシートはできるだけ具体的にまとめることが重要ですが、あまりにも細かい情報を盛り込みすぎるのも注意が必要です。
設計したペルソナが細かすぎると、自社にマッチした人材が応募して来なかったり、選考時に逃してしまったりするかもしれません。例えば、「朝食は毎日食べている」「洋画よりも邦画が好き」など、業務に関係ないことや自社で活躍するために必要のない要素でペルソナを設計するのは避けましょう。
採用におけるペルソナシートは、どういった人材が自社に必要なのかを具体的にイメージするためのものです。最低限必要な条件などを十分に検討し、過不足のないペルソナを設計しましょう。
調査・分析を怠らない
ペルソナの設計は、人事担当者の妄想・想像などで作り上げるのは避けましょう。というのも、ペルソナを想像で作り上げてしまうと、非現実的な人物像になってしまう可能性があるためです。
そこで重要なのが調査・分析を徹底すること。実際の就活生・転職者がどんな悩みを抱えて、仕事に対してどんな価値観を持っているのか、深くリサーチすることが肝心です。そして徹底的に調べた情報をペルソナに反映すれば、自社に合った人材を具体的にイメージできるだけでなく、応募者に刺さる訴求が可能となるでしょう。
ペルソナ設定だけで終わらせない
ペルソナシートを作成したとしても、実際の採用活動に活かせないと意味がありません。ペルソナシートをもとに募集や選考を行った場合も、ペルソナシートの内容をブラッシュアップしていく必要があります。
例えば、自社に必要な人材の条件が厳しすぎると、「応募者が集まらない」「ペルソナに近い人材が選考で見つからない」というケースもあるでしょう。また、ペルソナを設定したとしても、理想的な人物が現れるとは限りません。採用活動にペルソナシートを活用しながらも、実際の応募や選考状況などを鑑みてブラッシュアップしていくことが大切です。
ペルソナシートに記載する5つの要素
ペルソナシートの作り方を把握したところで、実際にどういった要素を含めれば良いのかも確認していきましょう。
ここで紹介する5つの要素は、いずれもペルソナシートに記載する基本的な項目です。ペルソナシートを作成する際は、社内で検討して自社に合った要素を加えてみても良いでしょう。
1.プロフィール
プロフィールはペルソナの基本的な属性を表すために必要な情報です。新卒・中途によって変わる場合もありますが、以下の項目をベースにしてみてください。
- 氏名
- 性別
- 年齢
- 居住地
- 家族構成
- 学歴
- 年収(中途採用の場合) など
なお、採用選考時に上記の項目に該当するかどうかを細かくチェックするのは、避けたほうが良い場合もあります。例えば、面接で求職者の家族構成について尋ねるのは就職差別につながる質問であるため、厚生労働省から禁止されています。
面接官などにペルソナシートを共有する場合は、こうしたNG質問・行動なども伝えておくのが無難です。
2.経験・資格
自社に必要な人材を採用するために、経験や資格は欠かせない情報です。こちらも新卒・中途を分けて考える必要がありますが、自社の状況や仕事内容などに合わせてイメージする人材を設定しましょう。なお、経験や資格を考える際は、以下の観点を参考にしてみてください。
- 職種
- 役職
- 仕事内容
- 勤続年数
- 保有資格 など
経験や資格の有無で、ペルソナがどんな社会的役割を担っているのかをイメージしやすくなります。転職者の場合は収入などを考える際の基準にもなるので、できるだけ具体的に設定しましょう。
3.パーソナリティ
ペルソナが行動する際の判断基準を具体的にするため、人柄や価値観といったパーソナリティについても考えましょう。
- 性格
- 価値観
- 志向
- 興味・関心
- 信条/モットー
- 目標
こうしたパーソナリティに関わる情報は、自社にマッチした人材を明確にすることにも役立ちます。例えば、ベンチャー企業なら保守的な人よりも挑戦的な人材のほうがマッチするでしょう。
経験や資格などの条件を満たしているからといって、性格や志向などにズレがあるとミスマッチになる可能性もあるため、パーソナリティはよく考えて設計することが大切です。
4.ライフスタイル
趣味や休日の過ごし方など、ライフスタイルに関する項目を設定するのもおすすめです。
- 趣味
- 休日の過ごし方
- 習慣にしていること
- 1日のスケジュール
- 私生活での優先順位 など
業務に関連しにくい項目ですが、ペルソナがどんなことに時間やお金を使うのかをイメージできます。ただ、細かい情報を盛り込むと重要度の高い要件が分かりづらくなることもあるため、最低限必要なものに絞って設計していきましょう。
5.ニーズ
パーソナリティと重なる部分もありますが、職場環境や仕事を通じて得たいスキルなど、ペルソナのニーズも明確にしていきましょう。
- 職場環境
- 仕事を通じて得たいスキル
- 身につけたい知識
- 携わりたい業務・プロジェクト
- 上司との関係
- 職場で活かしたい能力
ニーズが思い浮かばないときは、ペルソナの困りごとを考えてみるのも一つの手です。どういったことに困っていて、志望企業では何を求めているのかを考えれば、ストーリーを考えるようにペルソナのニーズを考えられるでしょう。
ペルソナシートの例
最後に、ここまで紹介した内容をベースにペルソナシートの例を紹介します。
氏名 | 佐藤 孝弘(さとう たかひろ) |
性別 | 男性 |
年齢 | 22歳 |
居住地 | 東京都杉並区(大阪府出身) |
学校 | ○●大学 ○●学部 |
部活・サークル | 野球部 |
家族構成 | 父・母・弟の4人家族。大学入学を機に、現在は一人暮らし |
性格 | ・努力家・年上の人から可愛がられ、友達も多い・辛いことは表に出さず、頼られることが多い |
趣味 | ・スポーツ観戦・ランニング・読書(ビジネス書) |
企業に求めるもの | ・努力や結果が評価される職場環境・将来的に家庭を持つことを考えているので、育休制度などが整っているのかを気にしている |
仕事で得たいスキル | ・マネジメント能力・プレゼンテーション能力 |
このほか、新卒採用の場合は学生時代に力を入れたことや、志望業界・職種、企業選びで重視することなどの項目を入れても良いでしょう。また、ペルソナに対する訴求ポイントを考える際は、自社の情報を整理して効果的なものをアピールするのがおすすめです。
ペルソナシートを活かして採用を成功させよう
ペルソナはマーケティング領域で使われることの多い概念ですが、採用活動にも取り入れることが可能です。これまで自社が求める人物像が漠然としていた企業や、以前よりもマッチ度の高い人材を採用したい企業は、ぜひペルソナシートを作成してみてください。
本記事で紹介したポイントを参考にペルソナを設計することで、人材の採用だけでなく求人・選考にも好影響をもたらすでしょう。ペルソナ作成のテンプレートは下記リンクよりDL可能です。「早速ペルソナを考えたい」「自社用にペルソナの項目を設定したい」など、御社の要望に合わせて活用してみてください。