縁故採用はトラブルのもと?導入前に知るべき4つのリスクと対策・メリットを解説!


「社長から知人のご子息を紹介されたが、どう対応すべきだろうか」
「縁故採用には、どんなメリットやリスクがあるのだろう?」

中小企業の採用活動において、「縁故採用」は古くからある手法の一つですが、そのイメージや進め方に悩む人事担当者の方は多いのではないでしょうか。

この記事では、縁故採用の基本からメリット・デメリット、導入を成功させるための具体的な流れや注意点までを網羅的に解説します。この記事を読めば、縁故採用を戦略的に活用するための知識が身につくはずです。

縁故採用とは?リファラル採用との違い

縁故採用は、しばしば「リファラル採用」と混同されがちですが、その性質は異なります。まず、縁故採用の正しい定義と、現代的な採用手法であるリファラル採用との違いを明確に理解しておきましょう。

縁故採用の定義

縁故採用とは、企業の役員や社員などの縁故者(血縁・地縁・友人関係など)を通じて人材を採用する手法のことです。「コネ採用」とも呼ばれ、昔から多くの企業で行われてきました。紹介者と候補者の個人的な繋がりをきっかけとするため、非公式かつ限定的なルートで行われることが多いのが特徴です。特に、経営者や役員の繋がりが強い中小企業では、現在でも重要な採用チャネルの一つとなっています。

また、縁故採用では、リファラル採用のような金銭的インセンティブ(紹介報酬)を設けないのが一般的です。あくまでも個人の信頼関係に基づく紹介であり、報酬を介在させると人間関係のトラブルに発展するリスクがあるためです。

リファラル採用との主な違い

リファラル採用は、自社の社員に人材を紹介してもらう採用手法です。縁故採用と似ていますが、その仕組みは大きく異なります。リファラル採用は、全社員を対象に制度として設計・運用され、候補者の紹介から選考プロセスまでが明確にルール化されています。縁故採用が特定の「関係性」に依存するのに対し、リファラル採用は全社員が参加できるオープンな「制度」である点が最も大きな違いです。

また、リファラル採用では報酬制度を設けているケースが多く見られます。詳しくは『リファラル採用の報酬相場とは?失敗しない制度設計と法的注意点を解説!』で解説しておりますので、合わせてご覧ください。

縁故採用は違法?注意すべき法律とコンプライアンス

縁故採用に対して、「不公平ではないか」「法的に問題はないのか」といった懸念を持つ方もいるでしょう。ここでは、縁故採用の法的な側面について解説します。

縁故採用そのものは違法ではない

結論から言うと、縁故採用を行うこと自体は違法ではありません。どの採用チャネル(求人広告、人材紹介、縁故など)を通じて候補者と出会うかは、基本的に企業の自由です。法律で禁止されているのは、採用の機会や選考過程において、不合理な差別を行うことです。つまり、縁故で応募してきたという理由だけで、他の応募者と異なる特別な選考ルートを用意したり、能力を問わず採用を決定したりすると問題になる可能性があります。

採用選考で配慮すべき法律・指針

縁故採用であっても、通常の採用活動と同様に、各種法律や指針への配慮が求められます。特に、性別によって採用の機会を差別することを禁じる「男女雇用機会均等法」や、厚生労働省が示す「公正な採用選考の基本」の考え方は必ず遵守しなければなりません。応募者の適性や能力と関係のない事柄(性別、国籍、思想信条など)で採否を判断することは、縁故採用においても決して許されないと心得ましょう。

面接の際も注意しておきたいタブー質問については、こちらの記事『採用面接で「聞いてはいけないこと」とは?採用担当者が知っておくべきタブーと質問例について解説します!』で詳細解説しておりますので、合わせてご覧ください。

中小企業が新卒採用で縁故採用を行う3つのメリット

縁故採用にはデメリットも指摘されますが、特に採用リソースが限られる中小企業にとっては、無視できない大きなメリットが存在します。ここでは、新卒採用で縁故採用を行う主なメリットを3つご紹介します。

1. 採用コストを大幅に削減できる

縁故採用の最大のメリットは、採用コストを大幅に抑えられる点です。通常の新卒採用では、求人サイトへの広告掲載費や人材紹介会社への成功報酬、合同説明会への出展費用など、多くのコストが発生します。縁故採用は、これらの外部コストをほとんどかけることなく候補者と出会えるため、採用予算が限られている中小企業にとって非常に魅力的な手法と言えるでしょう。

新卒採用でかかるコストについては、こちらの記事『新卒採用の平均単価とコスト内訳を徹底解説!最適化のポイントとは?』で解説しておりますので、合わせてご覧ください。

2. 定着率が高く、早期離職のリスクが低い

紹介者を通じて、候補者は入社前に企業のリアルな情報(社風、働きがい、厳しい面など)を詳しく聞くことができます。これにより、入社後の「こんなはずではなかった」というミスマッチが起こりにくく、結果として定着率が高まる傾向にあります。会社の文化をある程度理解した上で入社を決意してくれるため、新入社員の早期離職という課題を抱える企業にとっては大きなメリットです。

3. 信頼できる人物像を事前に把握できる

紹介者である社員や役員は、候補者の人柄や性格、強み・弱みをよく理解しています。短い面接時間だけでは見抜きにくい、候補者の本質的な人物像について、信頼できる第三者からの情報を得られるのは大きな利点です。特に、ポテンシャルが重視される新卒採用において、学歴やアルバイト経験だけでは測れない「人間性」の部分を事前に把握できることは、採用の精度を高める上で非常に有効です。

縁故採用に潜む4つのデメリットとリスク

多くのメリットがある一方で、縁故採用には慎重に検討すべきデメリットやリスクも存在します。これらのリスクを事前に理解し、対策を講じなければ、組織に深刻なダメージを与える可能性もあります。

1. 既存社員のモチベーションが低下する恐れ

縁故採用で最も懸念されるのが、既存社員の公平感や士気の低下です。選考プロセスが不透明であったり、採用された人材の能力が低い場合、「どうせコネで入ったのだろう」「真面目に頑張るのが馬鹿らしい」といった不満が生まれやすくなります。社員の不満は、生産性の低下や優秀な人材の離職に繋がりかねないため、細心の注意が必要です。

2. 組織の多様性が失われやすい

社員や役員の個人的な繋がりを通じて採用を行うと、どうしても似たような価値観や経歴を持つ人材が集まりやすくなります。同質的な組織は、一時的な結束力は高いかもしれませんが、新しいアイデアやイノベーションが生まれにくく、環境変化への対応力が低下するリスクを抱えています。組織の持続的な成長のためには、多様な視点や価値観を取り入れることが不可欠です。

3. 不採用にした場合、人間関係が悪化するリスク

紹介者が社長や重要な取引先である場合、その紹介候補者を不採用にすることは非常に難しい判断となります。もし不採用にした場合、紹介者との人間関係が悪化し、社内や取引先との関係にまで悪影響が及ぶ可能性があります。感情的なしがらみが生まれやすく、純粋な能力評価以外の要素で判断を迷わせてしまう点は、人事担当者にとって大きな負担となり得ます。

4. 候補者の能力を客観的に評価しにくい

「社長の紹介だから」といった背景を知っていると、面接官に心理的なバイアスがかかり、候補者を客観的に評価することが難しくなります。無意識のうちに候補者を良く見ようとしてしまい、評価基準が甘くなる傾向があります。その結果、本来であれば見送るべき能力の候補者を採用してしまい、入社後に現場が苦労する、といった事態を招きかねません。

【4ステップ】縁故採用を導入する際の基本的な流れ

縁故採用のリスクを最小限に抑え、メリットを最大化するためには、場当たり的な運用ではなく、しっかりとしたルールとプロセスを設けることが不可欠です。ここでは、縁故採用を導入する際の基本的な流れを4つのステップで解説します。

STEP1:縁故採用のルール・基準を明確にする

まず最初に、縁故採用に関する社内ルールを明確に定めます。「どのような関係性の人までを対象とするか」「紹介者にどこまで情報提供を求めるか」「選考プロセスはどう進めるか」などを文書化し、関係者間で共有しましょう。特に、「通常の選考と同様に、能力・適性に基づいて客観的に合否を判断し、縁故だからといって採用を約束するものではない」という大原則を明文化しておくことが重要です。

STEP2:紹介者(社員)への制度説明と協力依頼

社員や役員から紹介を受ける際には、事前に定めたルールを丁寧に説明し、理解と協力を求めます。「あくまで候補者の一人として紹介してほしい」「選考は公平に行う」という点を明確に伝え、紹介者に過度な期待を抱かせないようにしましょう。候補者のどのような点を評価しているのか、推薦理由などを具体的にヒアリングすることも、後の選考の参考になります。

STEP3:通常の選考フローで客観的に評価する

縁故応募者も、必ず一般の応募者と同じ選考フローに乗せて評価することが、公平性を担保する上で絶対に必要です。書類選考、筆記試験、複数回の面接など、決められたプロセスを省略してはいけません。面接官にも、縁故応募者であることを事前に伝えた上で、「背景に惑わされず、定められた採用基準に沿って冷静に評価してほしい」と依頼し、客観的な評価を徹底しましょう。

STEP4:採用・不採用の連絡とアフターフォロー

選考結果が出たら、速やかに候補者と紹介者の両方に連絡します。採用の場合は入社までの手続きを丁寧に案内します。不採用の場合は、特に慎重な対応が求められます。不採用の理由は具体的に伝える必要はありませんが、感謝の意を伝え、真摯な態度で対応することが、紹介者との良好な関係を維持するために不可欠です。紹介者への配慮を忘れずに行いましょう。

縁故採用でよくある失敗例とトラブル対策

ここでは、縁故採用で実際に起こりがちな失敗例と、それを防ぐための対策を具体的に紹介します。他社の失敗から学び、自社の制度設計に活かしてください。

ケース1:「能力不足」の社員が入社してしまった

【失敗例】「社長の紹介だから断れず、能力不足の候補者を採用。結果、配属先で全く活躍できず、教育コストばかりがかさんでしまった。」これは最も多い失敗例です。

【対策】どんなに有力な紹介者であっても、通常の選考フローを省略しないことを徹底します。スキルチェックや複数人での面接を行い、採用基準を満たさない場合は、勇気を持って不採用の判断を下すルールを厳守することが重要です。

採用基準の設定方法については、こちらの記事『「採用基準」の重要性とは?具体的な設定方法とメリットを解説!』で詳しく解説しておりますので、合わせてご覧ください。

ケース2:既存社員から「不公平だ」と不満が出た

【失敗例】「縁故採用で入社した社員が、明らかに他の新入社員より能力が低い。それなのに同じ待遇なのは不公平だ。」という不満が社内で広がるケースです。

【対策】「縁故採用であっても、一般応募者と全く同じ基準、同じプロセスで選考を行っている」という事実を、日頃から社内に伝えておくことが有効です。採用プロセスの透明性を高め、公平な選考が行われていることへの理解を促しましょう。

ケース3:不採用を伝えたら、紹介者との関係が悪化した

【失敗例】「役員の知人を紹介してもらったが、基準に満たなかったため不採用に。その後、その役員との関係がギクシャクしてしまった。」という人間関係のトラブルです。

【対策】候補者を紹介された段階で、紹介者に対して「選考は公平に行うため、必ずしも採用をお約束するものではありません」と明確に伝えておくことが最も重要です。事前に期待値をコントロールし、不採用の可能性もあることを双方で合意しておくことで、後のトラブルを回避できます。

まとめ

縁故採用は、「不公平なコネ採用」という古いイメージがありますが、その本質を理解し、適切なルールのもとで運用すれば、中小企業にとって強力な採用戦略の一つとなり得ます。重要なのは、縁故採用を「選考を省略できる特別なルート」ではなく、「信頼できる筋からの紹介で、優秀な候補者と出会うための一つのチャネル」と位置づけることです。

この記事で解説したメリット・デメリットを正しく理解し、公平で透明性のあるプロセスを設計することで、縁故採用を貴社の成長に繋げてください。