
面接の終盤、和やかな雰囲気の中で投げかけられる「ところで、あなたの尊敬する人は誰ですか?」という質問。一見、雑談のように聞こえますが、実はあなたの人柄や価値観を探る非常に重要な質問です。
「正直に『母親です』と答えたら、幼稚だと思われないかな…」「偉人を挙げたいけど、詳しくないから深掘りが怖い…」と、人選や答え方に悩んでいませんか?
この記事では、面接官の質問の意図から、誰を選んでも評価される回答の構成、そしてすぐに使える豊富な例文まで徹底的に解説します。この質問をあなただけの最高の自己PRに変えましょう。
面接で「尊敬する人」を聞かれる3つの意図
上手な答え方を考える前に、まず、なぜ面接官はこの質問をするのか、その「意図」を理解しておきましょう。意図が分かれば、どんな答えが求められているのかが見えてきます。
1. あなたの「価値観」や「人柄」を知るため
あなたがどんな人物を「尊敬に値する」と感じるか。その答えはあなた自身が何を大切にし、どんなことに心を動かされる人間なのかを、雄弁に物語ります。
企業は、あなたの根源的な価値観や人柄を知ることで、自社の文化に合う人材かどうかを見極めています。
2. 目指す「社会人像」を把握するため
あなたが尊敬する人物は、言い換えれば、あなたの「理想のロールモデル」です。その人物のどんな点に憧れ、自分もどうなりたいと考えているのかを知ることで、面接官はあなたが入社後に目指す社会人像をイメージします。
あなたの成長意欲や将来のポテンシャルを測っているのです。
3. 自社との「マッチ度」を測るため
例えば、「挑戦」を重んじる企業で、「安定」を大切にする人物を尊敬していると語れば、企業との価値観のミスマッチを疑われてしまいます。
あなたが尊敬する人物像と、企業が求める人物像が同じ方向を向いているか。この質問を通して、企業との相性も確認されています。
「誰を選ぶか」より「なぜ尊敬するか」が重要!回答の基本構成
この質問で最も大切なのは、「誰を選ぶか」ということ自体ではありません。たとえ、ありきたりな人物を選んだとしても、「なぜ尊敬するのか」という理由とエピソードに、あなたらしさが現れていれば、それは最高の回答になります。
どんな人物を選んでも評価される、最強の「4ステップ構成」を紹介します。
ステップ1:結論(尊敬する人物)
まず最初に、「私が尊敬する人物は、父です」というように、誰なのかを簡潔に述べます。
ここでダラダラと話さず、まず結論を明確に伝えることで、論理的な話し方ができるという印象を与えます。
ステップ2:理由と具体的なエピソード
次に、「なぜなら、〇〇という点を尊敬しているからです」と理由を述べ、それを裏付ける具体的なエピソードを語ります。
「父が〇〇という困難に直面した際、△△という行動で乗り越えた姿を見て、感銘を受けました」のように、あなただけが知るエピソードが、話にリアリティと説得力を与えます。
ステップ3:学びと、自身の目標
そのエピソードから、あなたが何を学び、その結果、自身もどうありたいと考えるようになったのかを述べます。
「その父の姿から、〇〇の重要性を学び、私も父のように、△△な社会人になりたいと考えるようになりました」というように、尊敬を、自分自身の目標へと繋げます。
ステップ4:入社後の貢献
最後に、その学びや目標を入社後にどう活かしていきたいのか、企業への貢献意欲として語り、締めくくります。
「この〇〇という姿勢を、貴社の△△という業務で活かし、貢献していきたいです」と未来に繋げることで、この質問が、単なる雑談ではなく、自己PRの場として完結するのです。
【例文12選】尊敬する人の答え方|人物別に3パターン紹介
ここからは、上記の4ステップ構成を使った、具体的な回答例文を12個、尊敬する人物のタイプ別に紹介します。
あなたの考えに近いものを参考に、自分だけのエピソードを当てはめてみてください。
「父親・母親など家族」を挙げる場合の例文
身近な存在である家族を挙げるのは、あなたの人柄や価値観を最も素直に伝えられる、王道のアプローチです。
大切なのは、ただ「優しい」で終わらせず、具体的なエピソードを通じて、その尊敬が仕事にどう繋がるかを語ることです。
例文1:父親から「責任感」を学ぶ

私が尊敬する人物は、父です。父の、どんな仕事にも最後まで責任を持つ姿勢を尊敬しています。
父は以前、大きなプロジェクトで予期せぬトラブルに見舞われましたが、決して諦めず、休日も返上して解決策を探し続け、最終的にチームを成功に導きました。
その姿から、仕事の本当の価値は、困難から逃げずにやり遂げる責任感に宿るのだと学びました。
私も父のように、任された仕事に最後まで責任を持つ社会人になりたいです。この誠実な姿勢を、貴社の業務においても貫き、信頼を築きたいです。
例文2:母親から「相手の立場に立つ力」を学ぶ













私が尊敬する人物は、母です。母は、常に相手の立場に立って物事を考え、行動する人だからです。
私が学生時代に進路で悩んでいた際、母は自分の意見を押し付けるのではなく、まず私の話を徹底的に聞き、私が自分で答えを見つけ出せるように、様々な選択肢を提示してくれました。
そのおかげで、私は後悔のない決断ができました。私も母のように、相手の立場を深く理解し、その人に合った提案ができる社会人になりたいです。
この傾聴力を、貴社の営業職として活かしたいと考えております。
例文3:祖父から「挑戦し続ける姿勢」を学ぶ













私が尊敬する人物は、祖父です。70歳を過ぎてから、独学でプログラミングの勉強を始め、今では地域の子供たちに教える活動をしているからです。
祖父の「学ぶのに、年齢は関係ない」と、常に新しいことに挑戦し続ける姿を見て、現状に満足せず、変化を恐れないことの重要性を学びました。
私も祖父のように、常に挑戦と学びを続けることで成長し、貴社がこれから迎えるであろう、いかなる事業環境の変化にも、柔軟に対応できる人材になりたいです。
「恩師・先生」を挙げる場合の例文
学生にとって最も身近な社会人である恩師や先生を挙げることで、あなたが他者から真摯に学ぶ姿勢を持っていることを示せます。アルバイト先の店長なども、具体的な仕事への向き合い方を語れる、素晴らしい題材になります。
例文4:ゼミの教授から「探究心」を学ぶ













私が尊敬する人物は、大学のゼミの〇〇教授です。先生の、どんな物事に対しても「なぜ?」を繰り返し、その本質を深く探究する姿勢を尊敬しています。
先生の指導の下で研究を進める中で、表面的な情報に満足せず、粘り強く一次情報にあたることの重要性を学びました。
この経験で培った探究心を、貴社のマーケティング部門で活かし、顧客自身も気づいていないような、本質的なニーズを発見し、新たな価値創造に貢献したいです。
例文5:部活動の顧問から「リーダーシップ」を学ぶ













私が尊敬する人物は、高校時代のサッカー部の顧問の先生です。
先生は、ただ指示を出すだけでなく、常に「チームのために、自分に何ができるか考えろ」と、私たち部員一人ひとりの主体性を引き出すタイプのリーダーでした。
その指導のおかげで、私たちのチームは、誰か一人の力に頼るのではなく、全員が当事者意識を持つ強い組織になりました。
私も先生のように、メンバーの力を最大限に引き出すリーダーになりたいです。この経験を、貴社でもチームの成果最大化に活かしたいです。
例文6:アルバイトの店長から「課題解決力」を学ぶ













私が尊敬する人物は、アルバイト先のカフェの店長です。店長は、どんなト
ラブルが起きても決して感情的にならず、常に冷静に原因を分析し、具体的な解決策を実行する方だからです。
クレームが発生した際も、お客様の怒りの裏にある本当の不満を的確に汲み取り、見事な対応で、最後にはファンに変えてしまいました。
その姿から、課題解決における冷静な分析力と実行力の重要性を学びました。私も、店長のような課題解決能力を、貴社の業務で発揮したいです。
「歴史上の偉人」を挙げる場合の例文
歴史上の偉人を挙げることは、あなたの持つ理想のスケールの大きさや、知的な側面をアピールできます。ただし、その人物の言動や背景について、深掘りされても答えられるだけの、十分な知識と理解が不可欠です。
例文7:坂本龍馬から「行動力」を学ぶ













私が尊敬する人物は、坂本龍馬です。
彼の、身分や立場が異なる人々を巻き込み、日本の未来のために大きな変革を成し遂げた、卓越した行動力を尊敬しています。
現状を嘆くだけでなく、自らが起点となって、大きな目標のために行動を起こすことの重要性を、彼の人生から学びました。
私も、坂本龍馬のように、前例のない困難な課題に対しても、臆することなく行動し、多様な人々を巻き込みながら、貴社の新たな事業を創造する一員となりたいです。
例文8:マリー・キュリーから「継続力」を学ぶ













私が尊敬する人物は、科学者のマリー・キュリーです。
彼女の、何千回もの失敗にも屈せず、新しい元素を発見するという目標のために、地道な実験を続けた、驚異的な継続力を尊敬しています。
このエピソードから、偉大な発見とは、才能だけでなく、日々の地道な努力の積み重ねの先にあるのだと学びました。
私も、すぐに成果が出なくても諦めず、粘り強く努力を継続することで、貴社の研究開発分野で、世界を驚かせるような成果を生み出したいです。
例文9:渋沢栄一から「社会貢献の精神」を学ぶ













私が尊敬する人物は、近代日本資本主義の父である渋沢栄一です。
彼が、単なる利益追求だけでなく、その利益を社会に還元し、国全体を豊かにするという「道徳経済合一説」を生涯貫いた点を尊敬しています。
企業の目的は、利益を上げることと、社会を良くすることの両立にあると、彼の思想から学びました。
私も、常に社会全体の利益を考え、事業を通じて社会課題を解決するという、貴社の理念を体現する人材になりたいです。
「アスリート・経営者」を挙げる場合の例文
特定の分野で圧倒的な成果を出したアスリートや経営者を挙げることで、あなたの目標達成意欲の高さや、プロフェッショナルな視点を示すことができます。その人物のどんな哲学や行動に、自分が共感するのかを明確に語りましょう。
例文10:大谷翔平選手から「目標達成意欲」を学ぶ













私が尊敬する人物は、野球選手の大谷翔平選手です。
彼の、誰もが不可能だと考えた「二刀流」という高い目標を掲げ、有言実行で世界最高の選手になった、その圧倒的な目標達成意欲を尊敬しています。
彼の姿から、目標達成のためには、周囲の声に惑わされず、自分を信じて、日々の努力を徹底的に継続することの重要性を学びました。
私も、常に高い目標を掲げ、その達成のために努力を惜しまない姿勢を、貴社の業務においても貫きたいです。
例文11:スティーブ・ジョブズから「創造性」を学ぶ













私が尊敬する人物は、アップル創業者のスティーブ・ジョブズです。
彼の、常識に捉われず、人々がまだ言葉にできないような潜在的なニーズを形にする、卓越した創造性を尊敬しています。
「人々は、それを見せられるまで、自分たちが何が欲しいのか分からないものだ」という彼の言葉に感銘を受けました。
私も、既存の常識を疑い、全く新しい視点から、世界中の人々を熱狂させるような、革新的な製品やサービスを、貴社で生み出したいです。
例文12:稲盛和夫氏から「利他の心」を学ぶ













私が尊敬する人物は、京セラ創業者の稲盛和夫氏です。
稲盛氏が経営において最も大切にされた、「利他の心」、つまり、他人のために尽くすという考え方に深く共感しております。
自分の利益のためだけでなく、従業員や、社会全体が幸福になることを目指すその経営哲学こそが、企業が長期的に成長するための根幹であると学びました。
私も、常にお客様や、共に働く仲間のために何ができるかを考え、行動することで、貴社の発展に貢献したいです。
これはNG!面接で避けるべき「尊敬する人」の回答例
よかれと思って答えた内容が、実は面接官にマイナスの印象を与えてしまうこともあります。ここでは、絶対に避けるべきNGな回答例を3つ紹介します。
1.「特にいません」と答える
「いません」という回答は、「他者から学ぼうとする姿勢がない」「向上心がない」といった、ネガティブな印象を与えてしまいます。
どんなに些細なことでも、他者から学んだ経験は誰にでもあるはずです。この質問は、あなたの人柄を知るための重要な機会だと捉え、必ず誰か一人、具体的な人物を挙げて答えましょう。
2. 理由やエピソードが曖昧
「父を尊敬しています。とても優しいからです」というように、理由やエピソードが抽象的で、具体性に欠ける回答はNGです。
これではあなたの価値観も、思考力も伝わりません。「なぜ優しいと感じたのか」を、具体的なエピソードを交えて語ることで、初めてあなたの話に説得力が生まれます。
3. 思想が偏った人物や、賛否が分かれる人物を挙げる
特定の政治家や宗教家、あるいは犯罪歴のある人物など、世間的に評価が大きく分かれる人物を挙げるのは、非常にリスクが高いので避けましょう。
面接官が、その人物に対して、あなたとは逆の印象を持っていた場合、あなたの価値観そのものを否定的に捉えられてしまう可能性があります。
「尊敬する人」に関するよくある質問
最後に、この質問に関して、多くの就活生が抱く細かな疑問についてお答えします。
ここで不安を解消し、自信を持ってあなたの人柄をアピールしましょう。
Q1. 正直に「いません」と答えるのはアリ?




A. 先ほども述べた通り、NGです。この質問は、本当に「尊敬する偉大な人物がいるか」を問うているわけではありません。
あなたという人間が、「他者から学ぶ力を持っているか」「どんな人物像を理想としているか」を知るための、コミュニケーションのきっかけです。
難しく考えすぎず、あなたの価値観を伝えるための「題材」として、誰か一人を選んでみましょう。
Q2. 面接官が知らないような人物でも大丈夫?




A. はい、全く問題ありません。大切なのは、その人物が有名かどうかではなく、「なぜ尊敬するのか」という理由の方です。
むしろ、誰も知らないような、あなたの身近な人物(アルバイト先の店長など)を挙げる方が、あなただけのオリジナルなエピソードが語れ、より印象に残りやすい、というメリットもあります。
Q3. 尊敬する理由が複数ある場合は?




A. 素晴らしいことですが、面接の場では、最も伝えたい理由を一つに絞って話しましょう。複数の理由を話そうとすると、一つひとつのエピソードが浅くなり、話全体がぼやけてしまいます。
あなたが、その人物から学んだ最も大きな教訓と、それを象徴する最強のエピソードを一つだけ選び、深く語る方が、あなたの魅力は確実に伝わります。
「尊敬する人」は、あなたの価値観を伝える最高のPR
面接での「尊敬する人は?」という質問は、あなたを困らせるためのものではなく、あなたという人間の「価値観」や「目指す姿」を知るためのチャンスです。
誰を選ぶか、で悩む必要はありません。大切なのはその人を通して、あなた自身の物語を語ることです。この記事で紹介した4ステップの構成を参考に、尊敬する人の素晴らしい点とあなた自身の未来への想いを結びつけ、最高の自己PRを完成させてください。